暗闇はいつも「彼」に無関心だった。
彼の孤独と悲しみが生んだ暗闇の中で、
しかしそれでも彼はひとりぼっち。
深淵に潜む緋色の瞳の少年Abyssは、
やがてその寂しさを癒すために一人の子供を創りだした。
それが、破滅の申し子―All。
その子供は父であるAbyssのために闇を切り崩した…どこからか響く鐘の音を鳴らして。
闇の拓けた先には「世界」があり、AllはそれをAbyssに差し出した。
その世界では、
花が蕾を開いて、
鳥がどこかへと舞って、
風が木々の間を縫って、
月が夜闇を照らして、
雨が涙をこぼして、
草が何度でも立って、
空が淡い色に澄んで、
人が誰かを愛して、
AbyssはAllの創った世界に夢中になった。
なにより自分の創った破滅の申し子が、こんなにもすばらしいものを
自分に与えてくれたことが嬉しくて仕方がなかった。
AbyssはAllの与えてくれたこの世界を愛することこそが、
Allへの恩返しだと信じた。
けれど彼は判っていなかったのだ。
Allが欲しかったのは、本当に欲しかったのは、そんなものではないということを。
All自身でも知らないその気持ち。
そしてその子供は、Abyssのいない間、あてもなく世界を彷徨い歩いた…