Soldiers who hold their breath

戦人の吐息

戦場で、息を詰めて敵を待ち構える。

どうしてこんな暮らしを選んでしまったのか。
分かっているけど、それでもLostは苦笑せざるを得なかった。
ずっとあの神殿でぬくぬくと生きていたら、こんな血生臭い白翼を背負うこともなかったろうに。

あの時、Right-Handに手を差し伸べられなかったら、彼女はどうしていたのだろう。
それまで友人と呼べる者もなく、
ひたすらに「世界の幸福」のために歌を紡ぎ続けた少女。
「生誕の巫女」と呼ばれ崇められていた少女。
けれど、結局は彼女も、貪欲に個人の自由を求める人間に過ぎないのだ。

「ホラ、早く行くわよ。一緒に行く?」
「うん…!」

あの時、Lostは確かに自由になった。

けれど。
ある時Lostは、自分の紡ぐ歌ごときでは「世界の幸福」など成せないことを知った。
彼女の嫌いな夕暮れのように鮮やかな炎が草原を包み込む。
泣き叫ぶ人々。
母の腕に抱かれて息を絶つ子供。

神様はいつだって無慈悲だ。
世界はいつだって不条理だ。

神様は決して、私達を助けてはくれない。
どこか遠くで私達のことを見ていることしかしない。

結局、人を助けられるのは、人だけならば、果たして"神"など必要なのだろうか?

ならば、それまで無垢だった白翼を赤く染めることになっても、
剣を取って人々を救うのが、私の唯一の罪滅ぼし。
Lostはそうして、仲間達と共に戦場へと繰り出した。


「女神」と呼ばれ、またしても「人間」の扱いを受けなくなっても。
大丈夫、だって私は、一人じゃない。






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