Maze without exit

出口のない迷路

今ならちゃんと分かる。
私たち、きっと出会うべきじゃなかったのだと。



目が覚めると、そこは隙間風の入る古い掘っ立て小屋だった。
海かなにかの近くらしい。窓の外から波の音が聞こえてくる。
脚がずきずきと痛むが耐えて、私はベッドから身体を起こした。

記憶を辿る。確か、自分は戦争の最中で、
故郷たる神殿に攻め入ったところだった。
そう、そこで、子供が戦場に迷い込んでいて、
子供を守ろうと庇ったところで、弓兵の攻撃を受けて崖から落ちたのだ。

そこまで思い出したところで、小屋に入ってきた影が、ひとつ。
「大丈夫?目が覚めたんだね」

そこにいたのは、自分が守った子供だった。
この子供が、私を小屋まで運んでくれたのだろうか…
小柄な立ち姿。やたらと目を引く、白い髪に、緋色の瞳。
助けたときは意識していなかったが、もしかして、この姿は…

「君は誰?まさか、君が神?」

白い髪に緋色の瞳は、この世界の神たる象徴だ。
もしかして、この幼い子供が、その神だとでも言うのだろうか。
警戒心をあらわにした私に対して、子供はからからと笑って見せた。

「まさか!ボクはそんなに高尚なものじゃない」
「でも、彼と同じ姿をしてるわ。
神じゃないっていうなら、君は何者なの?」

子供の説明はこうだった。
自分は神ではなく、神によって作られた破滅の申し子なのだと。
名前は知らないけれど、記憶のどこかに残る大切な少女を探すために神殿を出たのだと。

そして、その大切な人が、私ではないかと思った、と。

まさか。一笑に付して、こんな厄介ごとの種は神殿にさっさと送り返してしまおう。
そう、思ったのに。

脳裏に浮かび上がる。
草原のにおい。
あたたかな手。
抜けるような青空に、
そして、大切な誰かの笑顔。悲しい顔。
私の名前を呼ぶ、……この、子供の顔。



思い出した瞬間に気づいた。
ああ、また「繰り返して」しまうのだと。
心の中で、私と同じ顔をした誰かがわめく。
ここにいるAllを幸せにするまで、私は、
永遠にこの子供と出会わなければならいのだと…

そんなことをしても無駄だ。私は思った。
だって本当は、一介の人なんかに、
カミサマの理を越えることなんて、できやしないのだから。






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