Gladsheim



大人になるまでわからない

誰のまわりにもきっとある やさしく暖かなまなざしを


すべての知恵を集めたことば





白いシーツにうずもれて
しわくちゃの手を僕の頬に寄せて
母さんは 僕の瞳の奥にある
誰かの面影を ずっと 眺めていた

部屋の中にある 一冊の本が
誰もが求めている あの知恵の図書だろう

赤い革張りの手帳のような
古ぼけた表紙をめくると
懐かしい 彼女の文字が刻まれていた
一言だけの、そう これは…

「ここへ来たあなたへ
ここにはなにもない
かつて愛したあの人など どこにもいない

死者に逢うことなど 所詮幻想でしかない
さあ、お帰りなさい
明日を生きるために」

昔 母さんが 話してくれた
弱い彼女を 守り抜いた人のこと
僕は思った それは彼女が
天上の都で夢見た 父さんのことだろう

だけど、それは…

愛された記憶はなかったけれど
彼女のいつくしむようなそのまなざしは
ここへきて分かった
きっと僕は
誰よりも幸福に泣いた子供だったんだろう

「私のお腹に 宿った命は
彼が生きていた証
私は今 あなたに言いたい
生まれてきてくれて、本当にありがとう」

空を舞う 白い鳥が 僕を導くだろう
すぐそこに あるはずの 楽園を目指して

きっと、そうだ
カミサマは 彼女を許しただろう
鳥になって 明日を行く 彼とまた逢うことを
だって あの日 泣いていた僕の瞳の奥
靄の中 彼女を迎えに来た彼はここにいた







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