幕間・終わりの世界にて

吹き荒ぶ風を避けながら、その少女はげんなりとして目の前に広がる荒野を見た。
どこまで見ても灰色の砂、砂、砂。砂塵のむこうにかすかにぼやける町並みが見えるが、 どうせあれも人っ子一人いない廃墟の群れだろう。
「この世界はもう終わってしまったからね。大地は呼吸をやめて、空は死んで、生命は途絶えた。 まあ、こんななりでも世界は世界だ。これはこれで美しいと思わないかい?」
何より旅のお供が苛立つこと甚だしい。隣で優雅に岩に腰掛けている黒服の青年は、 この鬱陶しい砂埃ですら愛しいといわんばかりにうっとりしている。狂っている。分かっていたことだが。

黒服の青年は岩の上に立ち上がると、膝に乗った砂を払ってこちらを振り返った。
「不服そうな顔だけど、これもお役目だからね。割り切って仕事に励んでくれよ」
「なんでアンタ達大昔の連中の尻拭いを私がしなくちゃいけないわけ」
はためく白いマントの裾を払って毒づいた。黒服はふふと笑う。
「それは君が君として生まれてきたから、かな?恨むならそんな運命を背負ってしまった自分を恨むんだね」
この世界の神様のなんと無責任なことか、という声は砂塵を吸い込んで形にならなかった。 咳き込む少女に気づいているのかいないのか、風のむこうをまっすぐ見据える黒服の神は凛として言った。
「さて、行こうか。この世界を切り崩す最後のMaria。あの風の向こうにある黒い鐘に辿りつけば旅もおしまいだ」
そしてふと岩の上から少女を見下ろす。
「最後に君の名前を聞いておこうか?」
「…アンタ、ほんといけすかない神様ね」
少女はそっと自らの名前を風に乗せた。




我らがマリア、世界を統べるあなたのお名前を。

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