滅びた村の残骸を見ながら、ひとりの男が神に見捨てられた土地へと足を踏み入れる。
彼がこの村を後にしてから、早くも七年の時が経っていた。

愛した女はもう生きてはいるまい。
そう思っていたのに、彼の生家に灯るあたたかな光。
廃墟のようなぼろの家で、彼女はただひとり男の帰りを待っていた。


帰郷



あの約束から どれだけ経っただろう
君は僕のことなど忘れてしまっただろうか

世辞にも「良人」とは言えない 僕だったけれど
そんな僕を笑う君に期待していた

帰らなければならない
待っている人がいるから
すきま風の入る部屋で
麗しく笑う君の元へ

あの日 「秋までには帰るよ」と
不安げに瞳を揺らす君に言い訳して飛び出した
立ち尽くしていた 君に振り向きやしないで

あの約束から どれだけ経っただろう
噂でこの村が見捨てられたと聞いた

ひとり 僕を待つ 君は生きているだろうか
この廃墟ばかりが集う 荒れた村の奥

ぽつり 明かりのついた
屋根の傾いだその家が
僕を待つその人の
ぬくもりを示しているようで

帰らなければならない
待っている人がいるから
すきま風の入る部屋で
麗しく笑う君の元へ

今帰ったよ 僕のたいせつなひと


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