まるで心の中で時計の秒針の音が聞こえるみたいに、
私の中で確かにその時は刻まれていきました。
所詮私は失敗作。
所詮制限つきの幸福。
それでもAllと出会えた私は確かに幸せだったのです。
本当に短い時間でした。
本当に愛しい時間でした。
Allは私に美しいものをたくさん見せてくれました。
例えば広い広い草原を駆ける鳥や動物や。
澄んだ色をゆったりと揺らす海原のちょっと辛いにおい。
何処までも続く賑やかな町並みも。
私達、手を繋いでいればどこへでも飛んでいけるような気がしました。
Allほど、私を理解してくれる人はいなかった。
否、他にも私のことを知ってくれている人はいたのかもしれません。
けれど、それでも私に手を差し伸べてくれたのはAllただ一人だったのです。
Allと私は多くを語り合いました。
その中で、その子供は我らが神のことを大変に愛していることを知りました。
けれどそれを「愛」と呼ぶことを、Allは知りませんでした。
それだけじゃない、彼は「感情」というものの存在を知りませんでした。
自分が悲しいと思っても、それが悲しいということがわからない。
嬉しいと思っても、それが嬉しいということがわからない。
父のいない生活が「寂しい」と思っているに違いないAllは、
けれどそれが「寂しい」という気持ちだということを知らなかったのです。
私はAllにそういった感情を教えました。
Allが、私に世界の美しさを教えてくれたように。
私達は二人で揃うことが当たり前のような気がしていました。
二人で手を繋ぐことで、ようやく私達は完璧になった気がするのです。
きっとそれはAllも同じでした。
私達は、驚くくらいに互いのことがよくわかりました。
だけどAllは知りません。
私がひとつ、たったひとつだけ決して話そうとしなかったことを。
私達の時は、決して永遠じゃないということを。