Story

もう随分と前のこと。彼女の優しい兄王子が帰らぬ人となった。

悲しむ姫君に、従者はある「約束」をもちかける。姫君がもう泣かないように、彼女を慰めるために。
その場限りの、嘘のつもりだった。
だからだろうか。姫君はある時、この国を出ていずこかへと消えてしまった。
どこを探しても、姫君の姿は見つからない。

しばらくの時が過ぎて…
少女はふたたびこの国へと戻ってきた。その頃には、なにもかもが変わってしまっていた。
あのうつくしかった花畑も。
人であふれていた街も。
きらびやかな王城も。
そこに暮らす、人々も。
なにもかもがなくなってしまった。そう、従者ただ一人をのぞいては。

ある時から、この国には従者たった一人しか存在しない。
けれど姫君はすぐにはそれに気づけない。…戻ってきたとき、彼女の目は光を失っていたから。

だから従者は決めたのだ。
戻ってきた彼女を、今度こそ、悲しませることがないようにと…

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